金谷旅館の入口正面(植栽などにより一度に全体像を目にすることが出来ない)
1枚目から少し引いた位置より
西伊豆地区の集落を巡った後、下田の市街地からは5kmほど北に離れたところ、住宅地の一角ながら緑豊かな山地を背後に落ち着いた佇まいの「金谷旅館」にたどり着いた。玄関のある建物のほか複数の棟が連なっている様子で、名物「千人風呂」で知られ、創業は慶応3(1867)年という大変な老舗だ。
伊豆急行線の蓮台寺駅から近く、蓮台寺温泉の一部のように見えるが河内温泉という別の温泉の一軒宿で、山の麓から湧き出す湯は、千人風呂にたたえる豊富な湯量を誇っている。
千人風呂は日帰り客も受け入れており、夕方に差し掛かる頃で多くの客が出入りし、旅館の方も忙しそうであった。そんな中で応対されたのは30代前半くらいに見える男性で、案内された部屋は狭い階段を昇った先にあった。部屋自体はそれほど古い感じではなく、特に凝った意匠もなく、恐らくある時期に更新されたようである。部屋からは旅館の駐車場が見え、案内されたときは多くの車が停まっていたが、夜遅くなってみるとほとんどなくなっていた。今日は日曜日のこと、泊り客は少ないようであった。
一憩し、まずは宿泊客専用という貸切風呂に入って見ることにした。コンクリート打ち放しの浴槽で、三つに仕切られ好みの温度の場所に入れるようになっていた。時折外の道路を車が通過する音が聞こえるが、湯が投入されるかすかな音がするだけで大変落ち着ける空間だった。
日帰り客が少し落ち着くのを見計らって千人風呂へ。噂通り千人とは云わなくとも百人は余裕で入浴できそうな広大な浴場で、浴槽は総檜造り、屋根や壁も木材が使われ荘厳ともいえる空気が漂っている。浴槽はその中央で区切られ、奥の部分は1mほどの深さがあり立って入る。その広さはどのように表現すればよいか、私は学校の講堂のようだと思った。浴槽の面積としては、小学校の25mプールに匹敵するかもしれない。一番奥まったところに扉があり、露天風呂に通じる構造となっていた。
なお、この千人風呂は男性用となっているが、女性用の浴室からも小さな扉があり出入りできるようになっている。
それにしてもこの旅館の客室配置はどのようになっているのか、なかなか理解するのが難しい。1階部分には一見千人風呂をはじめとした浴室と休憩所しかないようにも見え、向かって左に延びる廊下を辿るとその奥に数部屋あるようだ。さらに専用の階段を昇った位置に数部屋。私が案内されたのもそのうちの一つであるが、何やら忍者屋敷の隠し部屋のようでもある。さらにそれとは別に、別棟への階段がある。こちらは廊下に沿い整然と部屋が並んでいた。
長年にわたり改築や建て増しが行われ、ちょっと泊っただけでは理解しにくいようだ。
この宿はネット予約したのだが、食事付きのプランがないため市街地のスーパーで仕入れ部屋に持ち込み、地酒のみ別注した。食事付きの客は部屋食のようで、宿の人は階段を昇降しながら運び入れておられ、建物の構造から致し方ないとはいえ、女中さんたちも大変だろう。
翌日の精算時にご主人が出て来られたのでその辺りを聞くと、玄関のある棟と千人風呂は昭和4年に造られたとのことだが、貸切風呂はそれ以前からあったとのことでどこまで遡るかは不明とのこと。部屋の配置が忍者屋敷風になっているのは複数回建て増しされた際、裏側の丘の地形を考慮したためそうなったとのこと。なお、別棟部分は戦後になって建てられたという。
早朝、再度千人風呂に入ると一面湯気が充満しており、昨夕とは異なる雰囲気であった。気温が低下したため湯気が多く発生したのだろう。その後貸切風呂に入っていると朝日が明り取りの天窓から差し込んできて、これも何とも言えぬ満ち足りた気分になれた。
(2022.04.10宿泊)
玄関風景

案内された部屋の様子

貸切風呂の棟(玄関建物に向って右側)

貸切風呂
玄関より建物奥を見る(突当りが千人風呂)
千人風呂(ネットより)
女湯入口横にある休憩室

客室に向う廊下
部屋へは多くがこのような階段で結ばれている
別棟の客室
部屋にあった内線用の黒電話
# by mago_emon3000 | 2022-05-05 15:00 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)