まず建物を外から見たときに眼につくのが中央にある洋風?の部分だ。正面に屋号が記されているのでここが玄関だったのかとも思うが、宿の方に聞いてみても明確な答えは得られなかった。二棟の主屋の間に位置しており、何らかの理由で増設されたものかもしれない。少し余談だが宿を後にするとき、この主屋の下を水路(暗渠)が横断していると聞いた。今では許されない構造だろうが、何らかの理由でそうせざるを得なかったのだろうか。
館内を一通り巡って特徴的なのが、まず浴場が主屋裏の中庭的なところの離れにあることだ。しかし内部は岩風呂風ではあるが取り立てて立派な浴場と云うわけではなくシンプルな造りだ。しかし新鮮な湯が常時掛け流され、それを独占できるのは何とも言えぬひとときであった。
外観、そして館内を通して強く感じるのは、伝統的な宿にもかかわらず全く外向きな色がないことである。それが実はこの旅館の最大の特徴なのかもしれない。近くにある金波楼と無意識にも対比してしまうからその思いが強くなってしまうのかもしれないが、とにかく着飾った色は皆無で、悪くいえば放置された雰囲気である。設備云々という方には向かないかもしれないが、そこがまたある意味魅力といえるだろう。
しかし老舗旅館としてのこだわりは各所に残されている。格式ある「ぎぼし」調の意匠のある木製の階段、廊下も格式を感じ、そして各部屋の障子にも凝った意匠が見られる。船や波をかたどったものなど様々で、各々の客室ですべて違うようだった。この時は同好者の集まりによる宿泊で、夕食は広間でいただいたのだがここも折り上げ式の天井など唸らせるものがあった。
熊本地震の発生から1年少し経った頃の宿泊で、宿の方の話によると玄関が開かなくなったり壁に損傷が生じたり被害があったという。温泉街全体も活気がないと聞く。魅力的な町並も残されているだけに、この旅館ともども長く生き永らえ旅人を迎え続けていただきたいものだ。
# by mago_emon3000 | 2020-06-06 16:07 | 九州の郷愁宿 | Comments(0)