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文化財級の意匠がそのままに―日奈久温泉・柳屋旅館



「柳屋旅館」は「金波楼」と並び日奈久を代表する伝統的な温泉旅館である。創業は明治22年、約130年の歴史を誇る。日奈久温泉というと「金波楼」の方が一般には有名で、建物の見映えも良いのだが、歴史はこちらの方が古い。それに温泉街の入り口正面の一等地に立地している。しかし、宿泊料金は金波楼の約半分(当時)である。

まず建物を外から見たときに眼につくのが中央にある洋風?の部分だ。正面に屋号が記されているのでここが玄関だったのかとも思うが、宿の方に聞いてみても明確な答えは得られなかった。二棟の主屋の間に位置しており、何らかの理由で増設されたものかもしれない。少し余談だが宿を後にするとき、この主屋の下を水路(暗渠)が横断していると聞いた。今では許されない構造だろうが、何らかの理由でそうせざるを得なかったのだろうか。

館内を一通り巡って特徴的なのが、まず浴場が主屋裏の中庭的なところの離れにあることだ。しかし内部は岩風呂風ではあるが取り立てて立派な浴場と云うわけではなくシンプルな造りだ。しかし新鮮な湯が常時掛け流され、それを独占できるのは何とも言えぬひとときであった。

外観、そして館内を通して強く感じるのは、伝統的な宿にもかかわらず全く外向きな色がないことである。それが実はこの旅館の最大の特徴なのかもしれない。近くにある金波楼と無意識にも対比してしまうからその思いが強くなってしまうのかもしれないが、とにかく着飾った色は皆無で、悪くいえば放置された雰囲気である。設備云々という方には向かないかもしれないが、そこがまたある意味魅力といえるだろう。

しかし老舗旅館としてのこだわりは各所に残されている。格式ある「ぎぼし」調の意匠のある木製の階段、廊下も格式を感じ、そして各部屋の障子にも凝った意匠が見られる。船や波をかたどったものなど様々で、各々の客室ですべて違うようだった。この時は同好者の集まりによる宿泊で、夕食は広間でいただいたのだがここも折り上げ式の天井など唸らせるものがあった。

熊本地震の発生から1年少し経った頃の宿泊で、宿の方の話によると玄関が開かなくなったり壁に損傷が生じたり被害があったという。温泉街全体も活気がないと聞く。魅力的な町並も残されているだけに、この旅館ともども長く生き永らえ旅人を迎え続けていただきたいものだ。
(2017.06.09宿泊)



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柳屋旅館の正面外観 中央に洋風の建屋部分がある また主屋が水路を跨いでいるのがわかる



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浴室棟は渡り廊下を伝っていく



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階段や廊下には手つかずの良さといったものが残される




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障子の意匠は各部屋ごとに異なっていた




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大広間の折り上げ天井と欄間

# by mago_emon3000 | 2020-06-06 16:07 | 九州の郷愁宿 | Comments(0)

昭和レトロな建物に力強い熱い湯―大鰐温泉・若松会館


大鰐温泉は津軽平野の南端に位置し、大小の旅館が温泉街を形成しているもののひっそりとした雰囲気の町である。

その日の宿をこの町の温泉民宿に押えていた私は、早く着いたので宿に入る前にどこか共同湯にでも入るかと思い、川岸の「若松会館」と書かれた浴場に入ることした。なかなか昭和レトロ感の漂う三階建の建物である。

浴槽は思いのほか広く、洗い場も広くゆったりとしているがとにかく熱い湯で、12分ほど浸かっては浴槽ふちで小休止という形でしか入れなかった。45名ほどの地元の客が出入りし、浴槽のふちで洗面器を使い体を洗う客もあった。そういえば泊った民宿では熱い湯を脱衣所床に回し、オンドルのように利用していた。




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若松会館(浴室はネットより拝借)



それはともかく、この浴場そして大鰐温泉には忘れえぬ思い出がある。

その夜私の携帯にその浴場の御主人?から連絡が入ったのである。見知らぬ番号は出ぬようにしているが、偶然出たことが功を奏した。脱衣場で私の帰りの切符を見つけたので預かっているというのである。落としたことなど全く認識なく、最悪帰る段になって途方に暮れる所であった。

どうして電話番号を知ったのかというと、切符と同時に前日に泊ったホテルの領収証もあって、そこに問い合わせた由。そのホテルはネットで予約しており、私の携帯番号も通知されていた。主人は事情を説明し、普通は第三者には知らせないはずの番号を教えてもらったようだ。

当日この町に宿を取っていたのも幸運だった。どこか遠いところに泊まる予定にしていたら、翌日の行程にも大きく影響する。数々の好い偶然が重なったことで、無事行程を完遂することができた。

何よりも、浴場の御主人の親切心に救われた出来事であった。

2016.12.30訪問)


# by mago_emon3000 | 2020-05-29 19:36 | 北海道・東北の浴場 | Comments(0)

一等地にありながら廉価で歴史深い金沢の旅館―すみよしや旅館

「すみよしや旅館」は金沢市街にある創業360年と市内で最も古い歴史を持つ旅館で、同好者の集う会合の機会に泊ることができた。旅館は市内の一等地にあり、多くの観光地は徒歩で向うことができる。しかし宿泊料金は廉価で素泊りならビジネスホテル並、2食付でもイメージよりはかなり安価に泊ることができる。


通りからは旅館というより商家といった趣のある外観であり、また隣には一回り大柄な歴史的な商家の建物があり、やや慎ましやかな感を受ける。しかしお互いの屋根の上には望楼のような構造が見られる。金沢の旧家によくみられるもので、建物の中から確認すると明り取りにもなっているようだ。冬の日照が少ないこの地方の工夫なのだろうか、または富の象徴として各家が競うように造ったのだろうか。


それはともかく、内部は現代の旅行者にも快適なように改装はされているものの、江戸末期の建築という。当旅館は江戸時代、「手判」と呼ばれる通行証の交付を藩から代行していたといい、館内にその現物が保存されているなど歴史を大切に守られている。

泊った部屋は「赤壁の間」といい、女将によると商家の格の高い部屋は赤い壁がよく用いられたという。また柱は漆が塗られているとのこと。


建物とともに印象深かったのは女将さんの細やかな機転の利く接客姿勢であった。旅館の場合、宿泊イメージを左右するものとして宿の方々の対応がより大きくなる。歴史ある旅館が手軽な料金で泊まれるということで、お勧めの旅館といえる。

2016.06.13宿泊)



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すみよしや旅館(右)


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隣接する商家ともに見られる望楼のような突出部


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宿泊した赤壁の間(旅館サイトより拝借)

https://www.sumiyoshi-ya.com/



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夕食と朝食



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近江町市場は旅館の裏手といったところにある


# by mago_emon3000 | 2020-05-06 16:16 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)

図らずも昭和レトロ感満載―小森温泉

岡山県のほぼ中央部、国道429号を辿ると川沿いに「小森温泉」がある。

地味な外観で、気づかずに通り過ぎてしまうような建物である。入口に残された「小森温泉開発由来」という古びた案内板によると、享保15年(1750)備前池田藩主により開発、昭和30年に掘進により20リットル/分の湧出量を確保、泉質はアルカリ硫黄泉とのこと。


玄関をくぐると内部は無人で、受付は奥で行うとの張り紙がある。この道に面する棟は宿泊棟なのだろう。細々ながら宿泊も受け付けているようで、玄関には「日本旅行会協定旅館」との掲示もあった。現在の建物は昭和29年に建てられたものという。


館内は昭和の温泉旅館の雰囲気のままで残されている。以前どこかの旅館で見たことのありそうな遊具(クレーンゲーム?)とその中に残された菓子箱。そして休憩スペースの机や椅子、廊下には按摩器付きの椅子もある。その他さまざまな備品は、最近新調されたものはほぼないだろう。


浴室は階段を下った先にあり、川に面している。石造りの浴槽、小さな窓から外は見えるが照明は薄暗い電灯のみであり、秘湯と云った雰囲気の漂う浴室である。

開館時間すぐに訪ねたが、続々と入浴客が現れ67人ほどの入浴客となった。やや熱いと感じる程度でアルカリ性の肌触りのよい浴感は心地よく、効能も高いようで地元の方のみならず遠方から入りに来る客も少なくないという。


恐らく日帰り客がほとんどといった利用状況で、施設の過半は有効利用されていないように思われる。ややもすると現代的な外観と内装の入浴施設に更新されかねないところ、頑なに昔のままに続けられているような印象を抱かせる。もちろんそうせざるを得ない事情もあるのかもしれないが、そのように感じる。

そこがこの施設の個性であり味であろう。私もそれを求めに訪ねたし、そういう客も少なくないに違いない。(2019.07.14訪問)


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小森温泉の建物(国道より)



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玄関を入るとレトロな雰囲気が充満している



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リバテーホテルというのが開業した記念に寄贈された鏡らしい



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年代物の按摩器 現役で使われているようだ



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浴室は階段を下りて半地下のようなところにある



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浴室(ネットより借用)


# by mago_emon3000 | 2020-05-03 11:41 | 山陽の浴場 | Comments(0)

自噴泉を持つ老舗旅館―三朝温泉・桶屋旅館

三朝温泉は山陰を代表する温泉場の一つで、殊にその放射能を含む泉質は高い効能があるとされ観光客のみならず療養を目的とする客も少なくない。

業務の関係で何度か宿泊したことがあるが、出張の身であるから大型旅館のビジネスプランを利用してのもので、余り風情を感じることはできなかった。

出張の折にいくつか目ぼしい旅館はマークしていたので、今回そのうちの「桶屋旅館」を選び予約した。大正2年創業の老舗で、総客室数8部屋の小さな宿である。

客室棟は最近改装されたらしく古さは感じないものの、玄関回りと通りに面する棟は古い意匠があちこちに残っており、古い旅館であることを伝えている。ここを改装しなかったことは称賛に値することと思う。宿泊客には快適さを提供する一方で、老舗旅館としての矜持を示しているようであった。

この旅館で触れないわけにはいかないのが浴場である。源泉が浴槽から直接湧出しており、新鮮そのものの湯を味わうことができる。脱衣場から浴室に入ると半地下のような構造となっているのも特徴的で、コンクリート張りの床も簡素ながら趣がある。聞くところによると床も温泉の温気でオンドルのように温められているとのことで、脇にはタオルなどが干してあるのもうなずける。

適温ながらしばらく浸かっていると盛んに汗が出て、その都度浴槽のふちに腰掛けたり周囲を歩き回ったりした。何しろ貸切りなので全く気兼ねすることはない。日帰り客を受け付けない姿勢なのも有り難い。当日はもう一組客があるだけであった。

浴室は他に1箇所あり、時間による男女入れ替え制であった。朝は他方に入ったが、狭いながらも木製の年季の入った浴槽で、底から静かに源泉が投入されていた。入っているうちに段々と外が夜明けを迎え、なんとも贅沢な気分であった。

女将さんはあっさりした方でこちらから問うたことについては親切に答えてくれるが、客の個人的なことを詮索するようなこともなく、居心地よかった。料理も一流とはいえないまでも良心的な宿泊料のわりに十分満足できるものであった。

2020.04.04宿泊)



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通りから見る桶屋旅館の外観




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半地下のようなところにある浴槽の底から源泉が自噴している




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通りに面する棟の内部は古い旅館であることを証明していた





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もう一つの小ぢんまりした浴槽も趣があった


# by mago_emon3000 | 2020-04-25 20:44 | 山陰の郷愁宿 | Comments(0)