奥日野のひそやかな宿-深津旅館
鳥取県南西部、広島・岡山県境に接する最も山深いところにある日南町。その中心である生山地区は伯備線の駅が設けられているものの、駅付近にわずかな商店や住宅が建ち並ぶだけのところである。しかしながら数件の旅館があるという情報を得ており、折しも業務上の都合でここに宿を取ると丁度良い案件が出てきたことで、その一つである「深津旅館」に泊ることにした。
駅前から南、歩いてだと3分くらいの所に旅館はあった。二階部に控えめな看板があるだけの実に地味な佇まいであった。
玄関先から御免くださいというと、60歳位?に見える男性が出迎えてくださった。
車はどこにと問うと、宿の横の路地に入って・・・と説明を受ける。言われた通りその細い路地を抜けると、駅前広場から続く線路沿いの敷地に出てそこが細長い駐車スペースとなっており多くの車両が停められるようになっていた。後で知ったことだが、島根県奥出雲地区の人々が鉄道で遠出する際は、車でここまで来て特急やくもに乗るというパターンが多いとか。そのため駐車場が広いのだろう。このうら寂しい生山に特急が停車する意味が何とか理解できるようであった。
旅館は既に80歳は超えていると思われる女将と、最初に応対されたその息子さんでやりくりされている。ご主人は20年ほど前亡くなり、以後は細々とお二人で続けられているようだ。女将の話では、元々は箪笥屋を営んでいたとのことだが、昭和30年代前半に大火があり、以後旅館業に転業された由。なので建物は築70年弱である。女将自身がそれ以後嫁いでこられたから、大火前の町のことも良く知らないとのこと。
同時に古い町並が残っていない謎が解けた。いわゆる奥日野と呼ばれるこの地域は、陰陽連絡の要衝であったり、たたら製鉄で得られた富の跡である豪商の建物が見られるなど、ある程度の町にはそれぞれに古い姿が残っているからだ。
客室は2部屋のみで、案内されたのは2階への急な階段を上ってすぐのところにある6畳間で、シンプルな内装であった。少しネットで見たところ、欄間や床の間などもある立派な部屋があるとのことなのでそこに案内されることを期待したのだが、1人客ということでここになったのか。息子さんに少しお話しし許可を得てその部屋を見せて貰った。街路に面し、立派な書院付きの床の間のある8畳間と、6畳位の部屋が続き間になっている立派な部屋であった。
浴室は普通の家庭風呂、夕食は女将さんの家庭料理といった感じで素朴な宿だ。古い旅館の宿泊体験記や口コミなどを見ると、田舎のお婆ちゃんの家を訪ねたような雰囲気といった感想を時折目にするのだが、それを想起させるようだった。女将曰く、伯備線の特急やくもの車両が最近新型になったが、引退する旧型車両を撮影したいと、いわゆる「撮り鉄」の宿泊もちらほらあったとか。
客室にはエアコンが無かった。山奥のこの町では朝夕の滞在ではさほど必要になさそうだし、冬は石油ファンヒーターなどが活躍するのだろう。夕食後窓を開け網戸にしていると、伯備線を走る列車音が時折響いてくる。短いのは旅客列車だろうが、貨物列車、そして夜行列車サンライズの通過音も聞こえてきた。
(2024.06.25宿泊)



玄関まわりの様子

玄関わきの階段を上ったところ

案内された部屋


街路に面した格式ある部屋


夕食と朝食

旅館建物は小さな中庭を囲んでロの字状に配置されていた


中庭を囲う一階部分廊下

中庭側廊下と二階を結ぶ階段


このような小風景も見られた
by mago_emon3000 | 2024-07-14 21:38 | 山陰の郷愁宿 | Comments(0)