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木造4階「斉月楼」は温泉街の象徴-渋温泉・金具屋(後編)


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この見取図は古いものだがとてもわかりやすい




8代当主による館内案内が始まった。「斉月楼」には昭和初期に腕を振るった宮大工たちの誇りとこだわりがあちこちに散りばめられている。各階をつなぐ階段一つとっても、踊り場に建つと窓の意匠、階段の手すりや裏の網代の模様など、それぞれ同じものはない。中でも富士をかたどった踊り場の窓は見事というしかない。

斉月楼にある客室は2階から4階に各2・3部屋のみの全7室で、当棟指定のプランもあるようだが基本的に部屋の指定はできないというからどの部屋にあたるかは着いてみないと判らない。いずれにせよ金具屋の中でも際立って格式を持つ客室であり、真骨頂といったところだろう。

御客があるので客室内部の見学はできないが、廊下だけでもずしりとした見応えがあった。廊下を通りに見立て、客室はそれぞれ玄関を持つような造りとなっており離れの一室のような雰囲気を漂わせている。廊下にも凝った造りの柱や屋根がある。それらは長年の使用、そして日々丁寧に拭い清められているのだろう、飴色の光沢を放っており独特の空気が漂っているようだ。

職人たちは歯車が好きだったのか、床にもはめ込まれているし階段手摺にも見られた。これらは水車に使われていたものなのか、また何かの機械の部品だったのか、詳細はよくわからない。格式の中にも遊び心が感じられ、これも特徴の一つであり興味深い。


斉月楼1階には客室はないが、廊下は帳場から各客室、また大浴場に向う客の動線にあたっており、泊り客は何度も行き来することになる場所だ。ここにもこだわりが感じられた。軒を張り出した長屋風の造りが続き、天井は青く塗られている。屋内にありながら店舗の連なる町並を歩いているような気分に浸れるようになっている。そして店になぞらえたその中には古くから使われてきた看板・道具類が展示されている。「陸軍省指定旅館」といった看板も見られた。

館内ツアーは参加者が多く、当主の説明に耳を傾けるだけで精一杯の様子だったので、これらは翌朝改めてじっくりと見て回った。


■斉月楼館内点描

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踊り場の富士山の意匠




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光沢を放つ階段




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壁に歯車の意匠が




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歯車は床にもはめられている




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こちらは長い一枚板の廊下




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客室の佇まい



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1階廊下は店舗が建ち並ぶ町並になぞらえた造り 青い天井は空を表すという




ツアーが終ると夕食の時間が迫っている。我々の席は「飛天の間」の最も奥に位置し、床の間に面した落着ける場所だ。さすがにここでは部屋食よりこちらで頂くのが良い。折上げ天井は高く開放的で、またその精緻な造りも見事である。むろん、食事内容も地元産の食材を出来るだけ使い、土瓶蒸しをはじめ品数多くいずれも美味であり、また使用される食器類一つとっても見応えがあった。


日が暮れて、改めて前の通りから旅館を眺めると、付近に人だかりがしている。多くは斉月楼に向け、スマホやカメラを構えている。「ここ(斉月楼を指して)に泊っている人もいるのか」という感想が聞かれた。宿付近より上流側を一通り歩いたが、外湯の湯めぐりの客など人の姿が目立ち、温泉街の風情が濃く感じられた。


翌朝は動画撮影などのため朝4時台から動き出すメンバーもおり、私も外泊先では早起きになるので昨日入れなかった大浴場に入ろうと「浪漫風呂」に向った。館内では最も有名な浴室で、正面向って一番左の「潜龍荘」という建物の1階にある。昭和25年に完成した浴場は窓などに洋風の意匠を取り入れ、ステンドグラスと円形浴槽、中央の丸く突き出した給湯口などが特徴で、ローマの噴水をモチーフにしたものだという。早朝ということで他に客はなく、じっくり味わうことが出来た。昨日入った「斉月の湯」はやや硫黄臭があったのだが、こちらは若干鉄分を含んだような入浴感があり、湯も少し濁りがあった。もう1箇所と、続いて斉月楼2階にある「子安の湯」にも入ったがこちらは昨日と同じ源泉のようだった。一人用のヒノキ風呂という極め付きの貸切湯で、昨夜最後の利用者から時間が空いているらしくぬるめだったので、新鮮な湯を蛇口から新たに投入して満喫した。

後で知ったが館内では「浪漫風呂」だけ源泉が異なっており、浴槽の地下3メートルから湧出する金具屋で最も古い源泉という。5つの貸切湯、男女入れ替え制の2箇所の大浴場、さらに露天風呂もあり、1泊の内で全てを制覇するのは相当気合をいれないとなかなか難しいだろう。1部屋ごとに内装の異なる客室、さらに9箇所の外湯を含め、金具屋そして渋温泉を把握しようとすると、かなり通わないと難しいようだ。


大広間での朝食後、例年なら各自の予定に向け早々に宿を発つことも多いのだが、今回はさすがに名残惜しいか9時半出発としそれまで自由ということになった。私は再度館内を散策・撮影した後、旅館前にある9番目の外湯・大湯に入った。温泉地内の旅館に宿泊すれば、外湯にも無料で自由に入ることが出来るのである。ここの湯も金具屋が管理しているとのことで、湯は浪漫風呂と同じく鉄分を含んだ濁り湯だった。特徴的なのが脱衣所脇に源泉の蒸気を利用した蒸し風呂があることで、サウナの苦手な私は少し入るだけにしたが、天然の蒸気と湯気でサウナよりは柔らかい入り心地で、薬効もありそうに感じた。


最初に温泉街を歩いてその佇まいに感銘を受け、泊りたいと思い続けて12年。それが同士の面々との1泊という形で叶ったこともあり、今後とも強く印象に残る一泊になることだろう。

(2024.06.01宿泊)




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夕食の膳



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浪漫風呂 洋風の内装だ




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貸切湯・子安の湯




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神明の館屋上の露天風呂




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朝食




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by mago_emon3000 | 2024-06-29 17:47 | 関東・信越の郷愁宿 | Comments(0)