北前船の恩恵を受け小柄ながらも豪勢な宿-酒田・最上屋旅館
酒田の町は日本海側有数の港町として大きく発展し、江戸期には北前船の寄港もあって商業も集積した。震災や度重なる大火などもあり町並からそれが感じられる地区は少ないが、市街地の西部、日吉町付近には料亭建築などかつての栄華を伝える建物が幾つか見られる。
「最上屋旅館」は駅からは西に1kmほど、商店と住宅が混在し、比較的飲食店も多い界隈にある。
最初目にした時はビルの間に挟まったような、いかにも窮屈な感じで建っているという印象だった。しかし黒板塀をまとった姿は、周囲の新しい建物とは異なった重厚な歴史を秘めた建物のように感じられる。
ご主人の案内で早速部屋に向う。建屋の全体像は見えないがかなり奥行き深い建物で、部分的には三階建となっておりその部分に一部屋だけ客室がある。屋根裏部屋とも称されるそうで今回この部屋に興味を持ち、予約時に希望しておいた。
むろん屋根裏ではないのだが細く急な階段の先に位置し、踊り場の所に古びた扉があるのもその印象を強めている。部屋は間仕切りを挟んで四畳半が二間ある。面白いのは小さな床の間などの意匠が仕切りを挟んで左右対称となっている点で、廊下に面しては立派な欄間もあり、小さくまとまっていながらも格式を感じさせる部屋であった。
ご主人から日和山公園の桜と落日が見事と教えて貰い、歩いて10分足らずの小山に登ると、丁度日本海に夕日が没するところであり、また満開の桜に映えて少々幻想的な風景が展開しており多くの客が訪れていた。今日は金曜日、夜桜見物の客や高校生などで公園は賑わっていた。宿の夕食は頼んでいなかったので、帰途に素朴な地場の居酒屋で味わいながら大将から地元の様々なことを聞くことが出来た。
部屋に戻り食後酒を嗜んでいるとくつろいだ気分となった。三階の部屋は通りから奥まった位置なので静かである。どことなく土蔵の中の様な雰囲気だ。今の時期はよいが、夏場はさすがに暑いらしく昨年エアコンを導入したとはご主人。館内は風呂まわりこそ更新されているものの、二階・三階へは全て急な階段を昇降する必要があり、お年寄りや足腰の不自由な客には向かない。しかし古い部分をあえて変えないご主人のこだわりが感じられるものである。洗面所などへの案内板、玄関ロビーに置かれた古色蒼然とした金庫、部屋には骨董価値のありそうな置物など、博物館に似た趣も感じる。
翌朝町並を探訪した後の朝食は手作り感があふれるもので、米飯も米どころだけあって美味く、しっかりとお代りをした。
出発前、ご主人からざっと館内を案内いただく機会を得た。玄関付近の天井には屋久杉の板が使われており、それもウズラ模様?という外見上非常に高級とされる材なのだそうだ。確かにウズラの羽の模様のようにきめ細かい年輪模様が見える。玄関から奥に向う廊下に使われている板は、気付かなかったが10m以上はありそうな1枚板が使われておりこれも驚いた。
2階部分の他の部屋も案内いただいた。見るからに豪勢さを感じる黒光りした柱や梁、欄間の意匠、これらは先代が商いをされていて各地の材木を取り寄せたためだそうで、秋田杉など有名な木材がふんだんに使われているという。
昨夕から館内のあちこちを歩いていると、一切きしみ音がしないことに気付いていた。それも柱や梁など建物の各部材が良質でどっしりとしているからだろう。
通りから見るといかにも小さな宿といったイメージだったが、館内に入るとその印象は見事に覆される。インパクトのある外観に惹きつけられても、内部は大したことがないといった宿も少なくないが、それらとは全く対蹠的な旅館といえるだろう。
「日本ボロ宿紀行」で紹介されているからか、当日も数組の客があった。いつまでも続いてほしいものと思いながら後にした。
(2024.04.12宿泊)

旅館正面

玄関の様子

玄関の天井に用いられる屋久杉の板


奥に連なる廊下は10m以上の一枚板が使用されている

案内された三階の部屋


間仕切りを挟んで四畳半の部屋が二間続きとなっている 意匠は左右対称


三階につながる階段 間に扉がある 上から見るとややひねった構造か


食堂と頂いた朝食

案内板と彫刻飾り



二階の別の部屋 秋田杉など上質の木材が多用されている
by mago_emon3000 | 2024-04-27 15:48 | 北海道・東北の郷愁宿 | Comments(0)