家具商人などで大層賑わったー府中・大吉旅館
古くは備後の中心であった府中市は山間部から平野の入口、いわゆる谷口集落として物資が集まり商業町として発展した所だ。家具や畳表など産業も発達し、商家や町家が残る古い町並もある。
旧市街地の南東側に位置する府中駅を出て西に向うと、小売店や理髪店などの小さな店舗があちこちに見え、幾つか旅館の姿も目に入る。
5分ほど歩いたところにある「大吉旅館」が今晩の宿である。建物は玄関のある二階建の棟と裏手の別棟で構成されており、別棟は昭和後期の一般住宅に近い外観である。
女将に案内されたのは別棟の二階奥の六畳間で、廊下に面したドアに簡素な手書きで「11号室」とある。この無機質な感じも昭和的なレトロ感を覚える要素だ。表側二階部と別棟に客室があり、ざっと見た所結構な部屋数がある。印象的にはビジネス旅館というところか。
食事は別棟1階の広間で頂いた。夕食時に料理を出された女将に色々伺うことが出来た。まず屋号のいわれはわからないとのこと。もともとは蚕種商(蚕の卵や蚕種紙の商い)を行っていたところ、現在の御主人の祖父にあたる人が町内の旅館「恋しき」から宿泊業を勧められ開業したそうだ。90年ほど前の昭和初期で、玄関側の棟は建築当時のものだという。
当初は役所関係など業務関連の客が多かったが、この町の伝統産業である家具職人や商人の利用が増え、ちょうど女将が嫁いでこられた50年ほど前は年中忙しかったという。裏手に建増しを行ったのもその頃で、同時期に主屋の内装も一新した。創業当時の建物と聞いて驚いたが、古く見えないのはその内装工事のためだとわかった。しかし、そういう目で改めて見ると、御手洗いの小窓など所々に古い時代の名残が感じられた。
料理内容もすき焼き鍋をはじめ、品数も多く宿泊料金に比して大変上等なものだった。今の客層は、個人客や商用客の他、家族連れの客も比較的多いのだそうだ。大型旅館やホテルに慣れた客は建物や設備の古さが気になるのかもしれないが、それを言わなければ十分満足できる。近くの銭湯を利用したので風呂は入らなかったが、浴室も清潔で宿の規模にしては広めだった。
期待以上の好印象の宿泊となった。それは女将の印象も大きかった。私の興味関心のことをお話ししたからかもしれないが到着した時の最初の印象とは違って思わぬ話好きの様子で、「恋しき」のことや古い町並や建物のこと、夕方訪ねた銭湯のことなど色々地元の方ならではの情報を得ることが出来た。ただし、最後まで御主人の姿は見ることがなかった。
(2023.11.25宿泊)
旅館正面
ロビーの様子 漫画本なども置かれている
泊った六畳間
部屋の入口扉
二階廊下
二階小スペース 「避難梯子」はどのようにして組立てるのだろうか
洗面所の窓は建築当時のもののようだ
夕食
朝食
裏手の増築部分(中央)
by mago_emon3000 | 2023-12-03 13:02 | 山陽の郷愁宿 | Comments(0)