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幕末から波乱万丈の歴史を経て―西舞鶴・茶又旅館



西舞鶴・東舞鶴と呼ばれるように東西二つの市街地を持つ舞鶴市。そのうち田辺城の城下町・港を背景にした商業町として発展した西舞鶴がより歴史の古いところである。

城下町としての古い街区は高野川の河口付近で、特に右岸側に廻船問屋や商家が建ち並んだ。現在でも古い町並として残っており、繁栄の歴史を伝える証となっている。

その一角に本日の旅館「茶又」さんがある。商店街の方向から向かうと突当りに厳かな佇まいが見えて来る。外観的に特徴的なのが表からは玄関が直接見えず、瓦の葺かれた門と塀が構えられれていることだ。


16時過ぎ頃に向ったが既に到着されている客がある模様で、いずれも一人客のようだ。

出て来られた女将さんに早速案内いただく。表からはわかりにくいが、旅館建物は廊下でつながった二棟となっており、間に小さな中庭があり金木犀がたくさんの花を咲かせていた。二階向って左奥の部屋を案内され、襖を開けると三畳間があり、左に六畳間が続く間取りとなっていた。


御茶を持ってこられたのを機に色々宿のお話を聞くことが出来た。旅館としての創業は江戸末期にまで遡り、当時は田辺城の正面から続く通りに面した一等地であったという。しかし、第二次大戦時に難を蒙ることになる。空襲による延焼を避けるため、この付近一帯が建物疎開の対象となったのだ。結果的には空爆を受けることはなかったが、その時点で築80年は超えていた建物はあっけなく取り壊されてしまったという。

戦後になって復興が進むとご主人は全く同じ形で再建を試みたものの、新しい街路計画により表側の一部が公道に取られたとのことで、玄関先に塀がある理由もそこにあるように思えた。

しかし、以前は周囲にも何軒か宿屋があったものの、戦後旅館として戻ってきたのは当館だけだったこともあり、それから当面の間旅館は黄金期で商人宿として繁盛することになった。当時、大阪方面からの往来は高速道などなく急行列車などによったので時間もかかった。商人たちは、売り込みのために何泊か、販売・商品の届けのために一泊、集金してまた一泊と、ひとつの商いをするのにこの町に何泊もした。贔屓の顧客も多く忙しかったそうだ。息子さんが60歳くらいと言われていたので既に80代と思われる女将は、その頃から忙しく立ち働かれていたようだ。


今は食事の提供を止められ、客も今日のような個人客がほとんどであり、気ままにのんびりとやっているといわれていた。私は食事の提供がある宿では食事つきを希望するが、食事時間を気にして動かなくてよい素泊りも気が楽な宿泊ではある。地の物を出してくれる居酒屋でもないかと探すのもまた楽しいものがある。近くに有名な古い銭湯があり、そこと旅館泊とのセットで来られる客が多いのだという。それも私はチェックしており、一通り旅館のことを把握したら出掛けてみることとしたい。


お茶を頂きながら裏手の高野川を見ると、対岸では河川の拡幅工事か作業機械が置かれている。旅館の創業の頃は、この付近まで廻船や商船が往来し、賑やかだったに違いない。

一通り廊下を伝って二階部だけ回ってみると、他にも二間続きの部屋もあるなど案外多くの客室がある。

多くの旅館でそうだが、表から見るよりは案外多くの部屋数・収容能力があり驚く。ただそれら空室の様子から、一日に多くの客は取られていない様子だった。


朝、御主人らしき男性を見掛けたがほぼ女将一人で切盛りされているようだ。息子さんはと尋ねたが、後を継がれるかどうかははっきりしていないような答えだった。波乱の歴史を歩んできた宿、銭湯ともども大変貴重なものであり、少しでも長く続けてもらいたいと伝えて後にした。

(2023.10.21宿泊)




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旅館の正面




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玄関前の門と塀




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玄関の様子




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案内された二階奥の部屋




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部屋からの高野川の風景




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二階奥の別の部屋




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階段と一階の廊下




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高野川から宿を見る 判りにくいが中庭を挟んだ二棟になっている




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by mago_emon3000 | 2023-11-05 11:25 | 近畿の郷愁宿 | Comments(0)