創業80年の駅前旅館―富山県入善町・ちとせ旅館
入善町は富山県の東部、富山湾に面するが比較的平坦な地形で穀倉地帯となっている。北陸街道とその枝道が通り宿駅も設置されていた歴史を持ち、北陸本線開通後は県東部の交通・物流の拠点の一つとなった。
「ちとせ旅館」は入善駅から徒歩1・2分の場所にあるいわゆる駅前旅館である。一見したところでは古い旅館のようには思えないものの、平屋の玄関棟の奥に二階建の客室棟が連なり、妻部を見せる建て方にはこじんまりした駅前旅館にふさわしい姿に思えた。
玄関をくぐると左手に食堂があり、奥に階段を数段昇って客室棟につながっていた。一階部に二部屋ほど、二階部は他の客もあるので全容はよくわからなかったが続き間が数部屋あるようだ。私が案内された二階の部屋は面白い配置で、廊下に二辺を囲まれ外は見えず、四畳半と三畳の続き間で隠し部屋のような雰囲気もある。思わず物置か何かだったかと聞いてみたが、当初から客室とのこと。なるほど改めて見るとしっかりとした木組の船底天井や、風流な欄間もある。失礼しましたと云ったところだ。
一通り回ってみると、特に1階奥にある二間続きの部屋は格式を感じるものがあった。続き間を仕切る襖にある書の存在がそうさせているからか。当旅館一番の賓客が訪れると、恐らくこの部屋に通していたと思われた。ただ当日は空き部屋のようだった。この部屋をはじめ、鍵のかからない部屋が多いからということもあるのだろう。
廊下にはかつて使われていたであろう箪笥などの伝統的な備品類が所々に置かれている。風呂やその他水回りを中心として現代の客に不便ないよう改装されている一方で、古いものも残し伝統を大切にされている様子がうかがえた。
食事は富山湾産の魚介類の刺身や蛍イカの沖漬といった地物も多く並び、これで二食付約7,000円なのだから、質・量に照らし合わせても十分すぎるものがある。
翌朝出発前に、少しご主人とお話することができた。初代創業者は様々な商売をされていたとのことで、旅館としては約80年前に創業され、建物も当時のままである。現在は3代目?のご主人(50歳前後)と大女将とで切盛りされているようだ。ネットの情報などでは名女将といった感想も聞かれたが、今は息子さんらしい新しいご主人に客対応を含め任せているように感じた。
当日は連休中であったが家族連れや個人客のほか、作業員風の客も見え、宿泊機関や食事できる施設の少ないところにあって重宝する宿のようだ。私も時折現場関係で宿泊することもあるので、こういう旅館が小さな町でも一つはあればとても助かると感じる宿であった。
(2023.07.15宿泊)
ちとせ旅館の外観
玄関から客室棟に向う廊下
案内された部屋の様子
1階奥の部屋
2階の別の部屋
夕食(このほか数点出て来る)
朝食
廊下(右に私の泊った部屋)
廊下(左に二階の二間続きの部屋がある)
中庭を見下ろす廊下 古い箪笥が
by mago_emon3000 | 2023-07-30 11:40 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)