長谷寺門前の老舗旅館-湯元井谷屋
桜井市の市街地から東へ、大和盆地が尽きる所にある長谷寺とその門前街。長谷寺は豊山という山号を有し、真言宗豊山派の総本山として位置づけられ、多くの参拝客を迎え入れている。門前街も大きく、寺に近い辺りには土産物屋や旅館、そこから西に折れて長々と商店や商家群が古い町並として連なっている。
旅館・湯元井谷屋は後者の比較的静かな一角にある。街路を挟んで南側に築140年を誇る本館、向いに大浴場のある新館の二館構成で、小さな旅館主体の門前街にあってかなりの収容力を持つ宿だ。もちろん私は本館指定で予約を行った。
宿泊当日朝、近鉄電車で来られるなら駅に着いたら電話してもらうと迎えに上がります、とご丁寧に連絡をいただいた。当日はかなりの大雨で、予定を少し早めて15時過ぎに駅から連絡を入れると、程なくワンボックス車で迎えに来てくれた。
宿泊の手続きは新館で行うようになっており、また入浴などで本館新館を行き来することになる。その点はやや不便ではあるが下駄と赤いオリジナルの傘が準備されており、粋な計らいといえる。
案内されたのは本館2階の最も西側に位置する部屋だった。正面は門前街、奥の広縁からは中庭が見え、緑の植込みの向うに土蔵が見える。聞くとこれらも旅館の所有という。椅子に座ってみると風情ある窓外の眺めでまずはしばらくここで時間を過した。早着もあって贅沢なひとときではあるが、雨音がせわしなく、またテレビを付けてみると大雨情報がしきりに流れていた。
本館内を一通り歩いてみると、室内外とも大きく手が加えられていない様子で原形が良く保たれ、老舗らしい内装である。フロントをそのまま奥に進むと坪庭があり、そこにも取り囲むように客室があった。
宿は湯元の名の通り温泉旅館でもある。新館入口には「千人風呂」との表示がある。本館裏の山に湧くということで、大浴場もあるということは湧出量も多いのだろう。フロントロビーから廊下を延々と辿り、途中から坂道になったりして突当りまで進むと、そこから左に折れ最後に階段を昇った所に浴場があった。随分奥行深い敷地であり、また地形に沿って建物が造られているのがわかる。
千人風呂というにはやや無理があるやに思えたが広大な風呂場で、しかも時間が早いからか私一人のみであった。肌触りの良い湯にしばらく浸った後窓外を眺めると、門前街の屋根瓦の連なりの向うに山々と、川の対岸の長谷寺駅が見渡せた。
食事は夕朝食共に部屋食であるのも落着ける。新館では何組かの客を見たが、本館の客は私のみのようで事実上一棟貸切状態である。何とも贅沢な宿泊だ。会席風の夕食は私の予想を上回るもので、そのためビールとともに大和の利き酒セットというのを追加注文した。冷酒三品の組合せで、こちらも料理によく合う。大和鴨の鍋物をメインに料理の一品ずつに手を込めたさまがわかり、また食器へのこだわりも感じられ、この老舗の宿にふさわしい食事内容に思えた。
翌朝、この時期の早い夜明けに門前街を往復した後長谷寺の朝の勤行に参列した。前日から宿に勧められていたものだが、荘厳な儀式で身が洗われるようであった。その後の講話で、昨晩は深夜に地域内でがけ崩れがあり、一帯が一時停電していたとのこと。町裏の大和川も轟々と濁流が渦巻いていてかなりの大雨であったのだろう。鉄道にも大きな影響がなく予定通り宿泊でき出発できたのは幸運といえる。
旅館に帰着後予定していなかった朝風呂に入ったこともあり、朝食、出発とやや慌しくなってしまったが、不満な箇所はほぼなく充実した宿泊だった。
(2023.06.02宿泊)
本館フロント周り
案内された部屋
床の間に沿って見事な一枚板がはめ込まれていた
部屋の欄間
広縁から眺める風景
二階部の廊下
新館の外観とフロント周り
新館の大浴場
大浴場に向う廊下に掲げてあった講札
夕食
朝食
新館を側面から見るとかなり奥行きが深く複雑な造りであるのが判る
by mago_emon3000 | 2023-06-17 16:15 | 近畿の郷愁宿 | Comments(0)