湯治宿の雰囲気を残す鉱泉旅館-いわき玉山温泉・藤屋旅館
いわき市の一部である四倉地区の郊外、山懐に玉山温泉という温泉地がある。古く平藩の時代、藩主の奥方の夢のお告げで発見されたという伝説があり、250年の歴史を持つ温泉である。探訪二日目の宿として、古い構えを残す延享元(1744)年創業の老舗「藤屋旅館」に泊ることにした。
玉山温泉は四倉地区の市街地から10分ほど、緩やかな丘陵に囲まれた自然豊かな場所にある。駅からは遠いものの常磐自動車道のICから近く、便利な場所にある。温泉街といったものはなく数軒の旅館のみの静かなところだ。川沿いに宿の看板を見ると、対岸に旅館建物の二階屋が望まれた。想像よりも大柄な建物で、玄関前の柱には「礦泉旅館 藤屋」との文字が見えた。
現在の建物は築120年とのこと。全体には改修が加えられそれほど古さは感じない中で、最も歴史を感じる場所は帳場周りだろう。フロントと呼ぶには余りにも旧態な様子で、帳場と呼んだ方がしっくりくる。20畳ほどの座敷には囲炉裏が置かれ、奥の算盤などが置かれた小机の裏には古めかしくも立派な金庫がある。天井も黒光りしており、新しい建物で伝統や古さを演出しようとしてもできないところである。その様子から元は商家だったのかと思い聞いてみると、創業当初から宿泊業とのことで、当初は近在の農家が農繁期の骨休めに利用する宿だったという。客は寝具や食料を持ち込み数日から1週間ほど滞在していたといい、まさに湯治宿だったわけだ。
案内された部屋は二階の二間続きの12畳間で、隣部屋とは襖で仕切られた昔ながらの構造である。しかし浴衣・洗面具をはじめ備品類は揃っており十分快適である。廊下には共同の冷蔵庫もあり、朝食のみで夜は持ち込みの私には有難い。このあたりからも湯治宿らしい風情を感じる。当日は春休み期間中でもあるからか、子供連れの客などで盛況のようであった。
温泉はアルカリ性の冷鉱泉で、時間により貸切利用も可能という。PHが10ほどのアルカリ性の泉質で、加温されているが丁度良い湯加減で、滑らかで肌ざわりの良い浴感であった。それにしても現在の温泉地の様子からして決して湧出量は多くなかったはずで、冷泉でもあり、江戸期の人がよく見つけたものと感心する。
翌朝は6時半から朝風呂に入れるとのことで、その前に宿の周囲を散歩する。宿の方が言われていた通り、様々な種類の鳥の声が聞えた。道路端にあった案内板を見ると、銅山や精錬所といった文字が見えた。鉱山とともに温泉が発見されたのかもしれない。宿の周囲は桜が花盛りであった。
朝風呂後、朝食は一階の広間で頂いた。湯豆腐やたっぷりの野菜など質量ともに十分なもので、温泉にも存分に入れて宿泊料的にこれで良いのかと思わせる安価さであった。設備云々を問わないのなら十分すぎる価値のある旅館である。
(2023.04.01宿泊)
川岸から見る藤屋旅館
藤屋旅館の主屋 玄関先に「礦泉旅館藤屋」の文字が
帳場周り
帳場にあった昔の精算道具類と金庫
案内された部屋
浴室
時間によっては部屋単位で貸切利用が可能
温度計 平市が存在したのは1966年までだがそれよりも随分古い時代のもののようだ


朝食
by mago_emon3000 | 2023-04-23 17:03 | 北海道・東北の郷愁宿 | Comments(0)