大阪湾を眺望する明治期創業の老舗 岬町・龍宮館
大阪府の南端に位置する岬町はビーチやヨットハーバー、ゴルフ場などが点在するレジャー基地となっており、その歴史は南海電鉄が開通した明治期に遡るといわれる。
町の北部にある淡輪駅を出ると、正面右寄りに小高い丘が見える。愛宕山と呼ばれ春にはツツジの名所として知られており、眼下には港の風景、遠景には大阪湾と関西国際空港を見渡すことのできる景勝地となっている。
その丘の一角に本日泊る「龍宮館」があった。「海と眺望と魚料理」を謳う観光旅館とのことだが、その外観は少し大きめの民家のようであり、いかにも地味な佇まいであった。しかし玄関先には屋号を記した木製看板が掲げられ、伝統ある宿であることを示していた。
少し早く到着したので港付近の町並を探訪した後、16時を過ぎてから玄関を潜った。まず驚いたのが20足はあろうか、多くのスリッパが並んでおり賑わっている様子であることだ。聞くとお子様連れの家族客が2組あるとのこと。
龍宮館は創業明治37年という老舗で、明治期南海電鉄の開通にあわせてこの付近は保養地として多くの旅館が建ち、ここもそのひとつだった。しかし以後徐々に少なくなり今は当館だけとのこと。自家用車などなく鉄道網も整備されていない当時、鉄道で気軽に1泊旅行ができ、景色が良く料理も旨い名所だったに違いない。そのような旅館に「駅から徒歩10分」でたどり着けるのだから魅力的なところだったに違いない。
宿泊手続きをしながら少し宿の方に聞いてみると、建物は当時から抜本的には建て替えていないという。玄関回りは余り改修していないとのことだが他の部分は折に触れて改装したそうで、古い旅館とは余り感じられなかった。
ただ、ざっと館内を見まわした中で二階の大広間は圧巻だった。20畳ほどの広さで、窓の外一杯に大阪湾の夕景が広がり、意匠の凝った木製欄干や欄間、床の間も見事であった。これまでどれだけの客がここで宴会を開いたのだろうか。この広間を見るだけでもこの旅館を訪ねる価値があるといって過言ではなかろう。カラオケ・セットが置かれているので今も時々は使われているものと思われたが、翌朝には家族客の朝食会場に使われたようだ。早く到着して見ておいて良かった。
風呂はシンプルなつくりだが大阪湾が見渡され、早い時間だったので他の入浴客もなくゆっくりとくつろげた。時折外でモーターの音らしいものが聞こえる。温泉とは聞いていないが湯の肌触りが何となく柔らかい。後で聞いてみると、冷泉を汲み上げて使っていると聞いたとこがあるが、良く判らないとのことだった。
食事は部屋食で、到着したときは多くの客に煩わされるのではと少し危惧していたがその心配もなかった。食材は魚を主体とした会席料理風で、質量ともなかなかのものであった。地酒も注文しこちらもじっくりと頂けた。先代の息子さんが料理を担当されているとのこと。献立を記した説明書きはなかったが、何だろうかと確かめながら味わうのも楽しいものがあった。
ただ少々残念だったのが宿の方が多忙そうで、夕食を運んでこられたときにもう少し旅館のことを聞いてみたかったが遠慮せざるを得ず、どなたが女将さんかもよく判らず仕舞いだった。
食事しながら窓の外を見ていると、時折関西国際空港に到着する航空機の灯りが点滅しながら見えた。
(2022.11.19宿泊)
玄関回りの様子
1階ロビーの風景
泊った部屋の様子 大阪湾の眺望が開ける
2階の広間 凝った豪華な意匠が見られる
風呂場
夕食(献立の一部)
朝食
泊った部屋付近から 別の建屋を客室棟がコの字型に取り囲む
愛宕山入口の看板
by mago_emon3000 | 2022-12-04 11:12 | 近畿の郷愁宿 | Comments(0)