元首相も宿泊したという老舗旅館-越知町・谷脇旅館


谷脇旅館の正面 玄関は少し奥まった位置にある
越知町は仁淀川中流の小盆地に町が開け、松山と高知を連絡する幹線道である国道33号が通るが鉄道沿線ではない。しかし町を訪ねて、予想外に大きな市街地が開けているという印象である。明治に入り商業が自由になると、山一つ隔てた佐川に負けぬほど発展したという。明治13年の新聞記事では「市街の戸数は凡そ二百軒ばかり、旅籠屋店舗等多数」とある。
この「谷脇旅館」もその頃創業した老舗の一つである。現在の旅館建物は昭和13年に建造されたものといわれ、高知方面から日用品・用品などを運んできた商人たちがここに宿を取り、旅館は盛況だったという。
旅館は中心街の一角に構えられていた。横が駐車場となっているため建屋側面も良く見え、かなり奥行きが深いことがわかる。特筆されるのが元首相の吉田茂氏が遊説中ここに宿を取ったことで、その部屋も当時のまま残されている。幸い予約時に希望しておいたのでその部屋に泊ることができた。玄関正面から見える棟から池のある中庭を隔てて奥の客室棟二階に位置する八畳間で、なるほど小さな旅館ながら格式を感じる設えであった。部屋からは裏庭が見渡せる。この形の部屋が隣にもう一つあった。
客室は全て確認できなかったが、この二階部には裏庭に面した2室と襖を隔てた部屋とがあり、一階にもやや簡素な部屋があった。そして玄関のある棟の二階に数部屋と、つごう10室近くあるものと思われた。
食事は玄関側の棟の一室で頂いた。見た目豪華な感じではないが鍋もの、ブリの焼物に自然薯、カツオのたたきというメニューである。たたきはさすがに新鮮で旨い。宿泊料からしても十分すぎる内容で、地酒「司牡丹」を追加注文した。
当日は一般の宿泊客は私だけのようであったが、玄関には常に幾つか他の靴があった。女将さんによると近くの病院で実習をしている学生が利用しているとのこと。後で見ると、玄関前の表側の部屋に泊っているようだ。夕朝食時に洗濯をしている気配や話し声が聞こえてきたのがそれらしい。その他、客は現場関係者や冠婚葬祭客などが主とのこと。
応対されたのは女将さんのみで、従業員を抱えずご主人とのお二人で切り盛りされているようだ。一部の部屋が予備室として物置代りになっていたほかは隅々まで清掃が行き届き、女将さんの日常からの気配りがうかがえる。そんな中で廊下や洗面所まわりなど、古いままの備品や表示が残され、老舗宿であることを主張しているようであった。
(2022.09.24宿泊)

広い奥行を有していることがわかる


玄関回り




案内された部屋(吉田茂元首相が泊った部屋)

隣の部屋の様子
部屋から裏庭を見る

奥の客室棟から中庭を見る


奥の客室棟の階段取り付け部 必ずこのステップ部を通らないと部屋に行けない構造になっている なかなかアングルが取れなかった

ステップ部にあるスイッチ 各部屋の電源を管理するためか(下に部屋名が書いてある)


夕食と朝食


by mago_emon3000 | 2022-10-09 11:08 | 四国の郷愁宿 | Comments(0)