「真癒の湯」で知られる創業400年の温泉宿-川渡温泉・藤島旅館
藤島旅館の入口と玄関前の様子
川渡温泉は鳴子温泉郷の最も東側に位置し、江合川右岸に小さな温泉街を形成している。
古くから知られた温泉場で、江戸期に刊行された『諸国温泉効能鑑』では、仙台藩の温泉として鎌先・秋保・鳴子とともに川渡温泉が紹介されている。
「藤島旅館」はその中でももっとも古い歴史を持ち、既に江戸初期の慶長の頃には温泉の湯守として宿屋を始めたといわれる。藤島家は代々入湯客からの湯銭の一部を藩に献上し、今は19代目にもなるという。
旅館はその歴史を感じさせる佇まいを見せていた。正面に角屋のように張り出した玄関部分はコの字型に切り込まれた土間に板の間が囲み、一度に多くの客を迎え入れることが可能なつくりとなっていた。この旅館は宿泊よりむしろ日帰り客の方が多いようで、大きな駐車場も備える。到着した頃も次々と客が出入りしていた。玄関付近には売店も充実している。
案内された客室は玄関から向かって右側に廊下をしばらく歩き、階段を昇ってすぐの二階にあった。廊下や階段も年季を帯び、何とも言えない風情を醸し出している。部屋は16畳と広く、内装はシンプルながらも窓が大きく明るい部屋であった。見ると客室棟はもっとかなり奥に向けて延びているようだ。休憩後少し探索してみると湯治棟を思わせる雰囲気で、奥には干された洗濯物も見えた。長期滞在客もあるらしい。部屋にあった見取図を見ると、1階の玄関に近い辺りに松1号などと名付けられた上等な和室、私の案内された二階部に竹1号などの一般和室、その他に単に客室と書かれている部屋が20前後もある。それらが湯治客用らしい。
浴場は大浴場と中浴場、貸切風呂さらに案内にはないが温泉プールもあるらしい。宿泊客は貸切風呂以外無料なので中浴場に入って見ると、温泉情緒の高まる淡い硫黄の香りが漂っていた。薄緑色の濁りのある湯には黒い湯の花が漂っており、濃厚でいかにも入浴効果のありそうな湯だ。実際川渡温泉は薬効性が高いことで古くから有名で、特に神経痛や関節痛に効果が高く、「脚気の川渡」と呼ばれ多くの入浴客を迎え入れてきたという。日帰り客の多くは低料金の大浴場を利用するのか、しばらく貸切状態で湯を味わえた。
湯はその薬効性から「真癒の湯」と呼ばれる。そんな名湯が24時間掛け流しで、もちろん自由に入れるとは贅沢だ。但し翌朝一番に大浴場に行ってみると暗く、湯の量が少ないようであった。どうやら掃除の時間にあたっていたらしい。そのため、中浴場に入り直した。
藤島旅館は見事な庭園でも知られる。丘を背にした立地を生かし、池を中心とした回遊式庭園となっている。あいにく雨上がりで濡れた草に阻まれて全部を見ることが出来なかったが、池の小島に石橋が渡されるなど、風流な庭であった。池には多くの鯉も泳いでいた。
翌朝出発時に宿の人に少し聞いてみると、東北大学農学部の学生の下宿としても利用されているのだという。昨日見た洗濯物はその学生のものだったらしい。それぞれの郵便受けも玄関付近にあり、見ると5名ほどの学生の利用があるようだ。部屋は下宿らしいのだろうが、自由に温泉に入れるとは何とも贅沢な学生生活ではある。
このように客層として一般の宿泊客、日帰り客、湯治客や下宿学生までが混然一体としているのは、現在では珍しい形であるといえよう。建物や温泉だけではくこうした旅館の形態も貴重なもので、続いていってほしいものだ。
(2022.07.17宿泊)
玄関回り
大浴場に向う廊下にある売店

廊下奥には客室が並んでいる
案内された部屋
案内された二階廊下は湯治宿的雰囲気が漂う
廊下に「温泉プール」の文字が
大浴場に向う辺り

浴場(中浴場)
夕食と朝食
宿に隣接する回遊式庭園
客室から見る旅館建物 (奥の瓦の建物が玄関のある棟で、この写真手前側も長屋のように客室棟が連なっている)
by mago_emon3000 | 2022-08-21 15:13 | 北海道・東北の郷愁宿 | Comments(0)