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鉄道院が造った国の迎賓館-奈良ホテル


私の宿泊施設への関心は伝統的な構えを残した和式の旅館が中心で、温泉旅館であればなお良いといったところだ。むろん高級である必要もない。

しかし例外もあって、クラシックホテルと呼ばれる伝統的なホテルの中で、特に奈良ホテルにはかなり以前から一度は泊りたいとの思いを抱き続けていた。宿泊の機会をうかがっていたところ、他の方面への探訪の帰途にもう一泊ということで実現することが出来た。奈良県内では探訪予定を組まずにホテル滞在時間を多く取ることもでき、好都合でもあった。


当日16時前に近鉄の駅に到着し、商店街から猿沢池畔を過ぎ少し歩くと、奈良町界隈を見下ろす丘に燦然と、いった趣でホテルの姿が見えてくる。奈良公園にも隣接した立地は閑静でありまた風光にも恵まれ、格式と風格を備えたホテルに相応しいものがある。

厳かな門構えと宿泊棟の壮大な広がりを見せる1909年築の本館に1984年築の新館が直角に接したような構造で、チェックイン等の手続は門をくぐったこの本館側で行うようになっており、内部でつながっている。私はもちろん本館の部屋を予約した。


ここでホテルの概要を簡単に説明したいが、私の文では上手く伝わらないかもしれないので館内の説明書を引用する。


奈良ホテルが建設される15年前、1894年に純洋風建築の帝国博物館(奈良国立博物館前身)が建てられると、奈良県民から「もっと奈良の景観に合うものを」という意見が出た。そのことから、後に「建物新築に際しては、古建築との調和を保持すべし」と県議会で議決。

近代建築の父とも呼ばれる辰野金吾が設計した奈良ホテルも、西洋に倣った建築様式でありながら、桃山御殿風総檜造りの意匠となっている。

日露戦争終結後、日本には来日観光客が急増。奈良県にも外国人のための迎賓館をという提唱で、奈良県、関西鉄道、実業家・西村仁兵衛の三者がホテル計画を立案。

1907年、鉄道国有化により、関西鉄道が買収されると、鉄道院が奈良ホテルを建設することとなった。鉄道院が建設する初のホテルということで、国の威信をかけ、日本初の国の迎賓館である「鹿鳴館」建設の約2倍の費用が掛けられた。

(以上館内掲示の説明より)



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本館正面



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本館の客室部分外観




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フロント付近 二階部分に吹抜け構造となっている


館内に足を向けてまず圧倒的に感じるのが、フロント周りの格調高さである。吹き抜けの2階部は回廊のような造りで、擬宝珠の付いた木製欄干が巡っている。そこから見下ろすフロントの佇まいは格式の中にあっても利用客に到着の安堵感を与えるものがあるようだ。内外の要人、皇族方の利用含め数知れない宿泊客利用客を迎え入れてきたのかと思うと感慨深い。

私は建築そのものは全くの素人で何様式などいったものも皆目わからないが、贅を尽くしたものであることは十二分に伝わってくるのはもちろん、建てられてこれまで経てきた年月があるからこその格式・風合いというものが醸し出されているように感じる。それは幾ら豪勢な造りや良質の建材が使用されていようとも、建築間もない建物では決して感じられないものだ。


ホテルとはいえ建物は木造である。ひとたび火が出ると大きな火災につながる恐れがあり、防火態勢も厳重に行われている様子がうかがえた。そんな中、廊下の消火器の傍らにツルハシのようなものが置かれているのが気になった。後で聞いたところによると、万一延焼した場合などの最後の手段で、窓を破って脱出するためとか。創業当時からの文化財的な目的もあると思われたが、実際これを使うようなことのないように願いたいものだ。



私が泊ったのは本館1階の最も奥に位置する部屋であった。そのため窓が二面にあり、明るい雰囲気を感じることが出来る。何よりも感じるのが天井の高さによる開放感、上級感だ。本館には計62の部屋があり、多くには創業当初からのマントルピースと呼ばれる暖炉が残り、窓も木製枠で上下にスライドする伝統的な形式が保たれている。そういったところに接するだけで、何か満ち足りた気分になってくる。それは単に古びているのではなく大切に扱われながら保たれているからであろう。


本館の食事処「三笠」では、夜はフレンチのコースが提供されるとのことで、予約すれば食事できたのだろうが、私は朝食のみここで頂くことにした。創業当時から大きな改装なしというこのメインダイニングは見事な折り上げ天井がひときわ高く、大変豪勢な空間であった。


貧乏性なのか列車のグリーン車に座ると席を離れるのがもったいない気がするのと同じで、なるべく長く滞在しないとという思いが湧く。チェックアウト時間が11時と遅めなこともあり、朝食後奈良町・奈良公園界隈を1時間余り散策し、再び館内散策・撮影と部屋の雰囲気を味わった。朝の陽光が差し込む館内や部屋は昨夕とはまた異なった趣があるようであった。

(2022.01.03宿泊)



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フロント横のラウンジ



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客室廊下



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泊った部屋の様子



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部屋の窓は創業当初の木製(外側に補強がなされている)




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防火設備 ツルハシ状のものが備えられている



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メインダイニング「三笠」と茶粥の朝食




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by mago_emon3000 | 2022-02-20 16:38 | 近畿の郷愁宿 | Comments(0)