七代目女将で再出発-美濃市・岡専旅館
重要伝統的建造物群保存地区として重厚な古い町並の残る美濃の町。川港を中心として産業商業が発達し、うだつの町並としても有名だ。
商家町の只中で河港へ通じる道筋にも沿ったところに「岡専旅館」がある。この町を初めて歩いたのは2001年で、まだ古い旅館にはあまり興味のない時分でありながら、うだつの連続する通りからふと横道にこの旅館の見える風景は印象深いものがあった。写真も複数撮影しており、それ以来ここを訪ねた時には泊りたいと思うようになった。
その後、残念ながら旅館業は休業しているとの情報を得て半ば諦めていたところ、毎年恒例の同志との会合の開催地として岡専旅館の名が挙がってきた。何でも最近になって営業再開に向けて準備しているのだという。古い旅館は一旦休業となると、そのままになってしまうパターンがほとんどと思い泊る機会は訪れないと思っていたが、朗報である。
そして当日。
実際玄関を潜って入ってみると通りから見るだけでは想像できない様々な姿を見ることができた。本うだつの上がった屋根をもつ表の建物から入ると、玄関周りは意外にも現代風な感じになっていた。昭和初期に改装されたといい、傍らの座敷は応接間的な一室か。一般的な旅館ではそこで客室のある座敷に上がるのだが、岡専旅館は一旦建物を突き抜け中庭のような場所に出、右手にある客室棟に入る構造になっていた。
そこからでもかなりの奥行きがある敷地である。
客室は中庭に面した廊下に沿って縦列に並び、階段を上った二階部分にも客室があった。室内のしつらえからすると、二階の部屋の方がやや格式高い印象である。
旅館の切り盛りは七代目という女将一人でされているように見えた。まだ営業再開も就任されても間もないためか、6人もの客はやや負担が大きいかにも見えた。しかし旅館の成り立ちなどの説明を受けて、長く続けていこうとされる強い熱意が端々に感じられた。
女将の説明によると江戸時代末期頃から塩問屋をされていたといい、中庭を挟んだ土蔵等の建屋は使用人が起居していたところなのだという。ほかに土蔵などもあり、建物全体のたたずまいは旅館というより商家といった印象であった。
食事は朝食のみであったが、それが一品一品手作りのもので予定時間より少し遅くなったことをしきりに恐縮されていたが、この朝食だけでも女将さんの人柄が垣間見えるような気がした。
この旅館の一番の魅力は何かと思うと、原形がよく保たれていて現代風に改築された様子がまるでないところだろう。再開して間もないからか一部使われていない所もあるようだった。今後老舗旅館として軌道に乗ったとしても、外向きの改装はせずに居てほしいと感じた。そして何より、奮闘される女将の存在である。宿泊から1年半以上になるが、ネットでは泊ったという情報を時折目にし、その度に姿が思い浮かんでくるようだ。
また機会を見つけ泊ってみたいものである。
(2019.05.25宿泊)
玄関回りの風景
中庭からの風景
中庭と宿泊棟
宿泊棟の廊下
急峻な階段 建築当時そのままのようだ
二階から中庭越しの風景 正面は塩問屋の名残とのこと
泊った部屋の一つ
床の間の意匠
屋根はほぼ原形のままのようだ
朝食時の風景 このほか手作りの献立が並んだ
by mago_emon3000 | 2021-02-21 18:23 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)