炭鉱主の別邸を譲り受けた登録文化財の宿―唐津・旅館綿屋
虹の松原に海岸線が縁どられ、松浦川河口を挟んで城跡を望む唐津の町。城下町として発展したこの町は古い町並が残り、著名人の邸宅、老舗旅館など歴史を感じる建物も多い。
松浦川河口近くの左岸側に旅館・綿屋がある。明治9年に今とは別の場所で料亭として創業し、昭和8年に現在の建物で旅館として開業している。
この建物はもともと炭鉱主であった田代氏の別邸として明治後期に建てられたものであり、本館と洋館は登録有形文化財となっている。
泊ったのはその洋館部分であった。田代氏別邸時代の名残を伝えるもので、玄関に向って右側、角屋のようなこじんまりした続棟となっており、屋根は同じ瓦葺きであるが下見板張り調の洋風の外観となっている。今は閉ざされているが側面に扉があり、客人はそこから通されていたのだという。
洋室は面積23m2で、一般的なホテルの部屋よりはかなり広い。賓客を迎え入れた間だけあって、例えばドアや窓の取り付け部の設え一つとっても、何度もカンナ掛けされ時間と手間をかけて造られたことがわかる。伝統的旅館の中にあって、建物本来の歴史を物語るこの部屋に泊ることもひときわ味わい深いものがある。
綿屋旅館の玄関を望む 右に少し見えるのが洋館部分
専用の扉(現在は閉鎖)のある洋館部分
玄関回りの様子
洋館の内部
洋館の窓周りの意匠
本館館内の様子
この綿屋旅館は温泉旅館を名乗っている。湧出しているのではなく掘り当てたものではあるが、洋室の真向かいに露天風呂の入口があり、夕刻を迎え薄暗くなる外の風景を眺めながら贅沢な気分であった。本館の客室奥には男女別の浴場もあり、翌朝そちらに入ると唐津城を眺めることもできた。
夕食は部屋食で、この格式ある洋室での部屋食というのもまた一風変わった趣で、優雅な時間であった。呼子産の烏賊シューマイ、佐賀牛の陶板焼きなどを地酒とともにいただくことができ、質量的にも満足だった。
和室は意匠も部屋ごとに異なるという。申し込めば見せてもらえたとは思うが、他の客もあり、また施錠もされているようだったので内部の見学は遠慮した。また泊る機会があれば、今度は和室に宿泊したいものである。
(2021.01.03宿泊)
露天風呂
夕食の献立の一部
本館二階から見た玄関先の風景
松浦川対岸から見た綿屋旅館
by mago_emon3000 | 2021-01-31 16:14 | 九州の郷愁宿 | Comments(0)