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刻み煙草商時代の豪勢なしつらえも残るー徳島井川町・勇楼旅館


徳島県の西部、四国一の河川である吉野川はこのあたりでも広々とした流域風景で、平地・耕地を形成している。平野部の最も奥にあるのが池田の町で、その少し下流側に辻という町がある。徳島本線の駅が設けられているものの普通列車しか停車しない小さな駅だが、かつては祖谷地域の山間部からの物資が舟運に切り替わる要所として栄え、池田を凌駕する賑わいを示していたという。また煙草を筆頭に産業も盛んだった。

今ではひっそりとした町並であるが、所々に商家風の建物が残るなどかつての賑わいを感じることができる。

「勇楼旅館」はそのような古い町並の一角にあった。街路からはすこし控えたところに立派な立上がりの二階屋、奥に別棟を持つ構造だった。もともとは刻み煙草を扱う商家だったとのことで、手前の棟は明治27年頃、専売公社に移行するにあたってその補償で建てられたもので、その後昭和に入り旅館として買い取られた際奥の建物が建てられたという。今は棟続きとなっているが、全く性格が異なる建物である。



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旅館の外観 刻み煙草商だった主棟と右側に小さく見えるのが宿泊棟



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主棟から見る中庭 三本のカイズカイブキが印象的だ



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カイズカイブキの裏側には煙草商だった時代の門が残されている



この旅館一番の見どころは、商家だった手前の棟の2階にある。部屋に案内されたあと早速女将とその息子さんと思われる男性に案内していただいた。刻み煙草の商取引が行われていたところとのことで、狭く急な階段の上には二間続きの座敷があった。特に奥の座敷には立派な床の間をはじめ贅を尽くした意匠があちこちに見られる。床の間はケヤキの一枚板、床柱は黒檀、そして明り取りの窓があるのも特徴的で、それにも精緻な施しがある。梁ひとつとっても7本も細かく鉋がけした跡があり、非常に手間がかけられている。女将いわく、職人が煙管をくゆらしながら考え何年もかけてこしらえたもので、後でここの普請は私がやったのだと自慢できるよう、生きがいをもって取り組まれたとのことだ。

この一間だけでまさに文化財的価値があるものと思う。

またこの部屋から正面には立派な庭が見える。三本並んだ大木はカイズカイブキとのことで、昔学校の校庭の片隅に植えられていたのを思い出しても全く比較にならないほどの大きさである。木の裏側にあたる位置には刻み煙草商時代の門が残されていた。

泊ったのは奥の棟1階にある客室で、ここも昭和13年築そのままの伝統を感じる部屋であった。こちらの2階にも見どころがあり、それは100畳近くあろうかという大広間である。かつては町の結婚式というとここで行われるのが常で、学校の先生や役場の職員などとなると参列者は百名を超えたという。収容能力を上げるため舞台の一部を削って座敷を広げたとのは女将の話。また徳島自動車道建設時には作業員の宿としても大活躍したそうで、この大広間も仕切って泊る場所としたそうだ。

そのような時代ごとの数々の客を受け入れてきたこの旅館も、今では細々と営業されているようだ。ご家族での経営とはいえ維持は大変とのことであった。商談部屋を筆頭に、この町の繁栄を伝える証人のようであり、少しでも長く続いてほしいものと思いながら後にした。

建物そのものに色々感動する点が多いので食事のことがおろそかになったが、料理旅館と名乗られているだけあって、夕食・朝食共に宿泊料の割には質量ともに申し分ないものであった。

そういえば「勇楼」という屋号は、女将によると旅館を創業された方(又はその関係者?)が「はまいさみ(浜勇?)」という四股名の力士だったことに由来するとのこと。口頭でのやり取りだったので、定かな情報ではないが・・。

2020.11.22宿泊)





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玄関より



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案内された部屋(宿泊棟の一階)



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夕食の献立




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本棟の二階は煙草商として商談が行われたところ




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床の間の意匠 明り取りの窓があるのが珍しい





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細かい所にも手が尽くされている



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二階の座敷襖に施された書



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二階への階段



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宿泊棟二階の大広間


by mago_emon3000 | 2020-12-13 19:39 | 四国の郷愁宿 | Comments(0)