自家源泉を持つ創業当時からの木造三階の旅館―玉造温泉・湯元玉井館
玉造温泉は三朝・皆生温泉などとならび山陰では有名な温泉地でありその歴史は奈良期に遡るという大変古いものだが、団体客に対応した大型な旅館が多く、温泉街の風情といった観点ではやや淡いものがある。
そんな中に温泉街中心を流れる玉湯川に玄関を向けて建つ木造三階建築の「玉井館」がある。付近には知名度も高い立派な建物の旅館もあるが、こちらは部屋の前が樹木に覆われていることもあっていかにも小ぢんまりとした風情である。玉井館には温泉街入口付近に大型旅館建築の別館もあるが、むろん私はこの本館を選択した。
玉井館の外観
女将さんに迎えられ、一息ついたところで早速この旅館の建物はどのくらい経つのかと問うた。「創業当時からの建物で110年以上になる」ということで正確な年次についてはあいまいな答えだった。あるいは従業員の方だったので正確に答えられないだけだったのかもしれないが、このような旅館で思うのが老舗であることをあまり強調されないことが多いということだ。旅館名と創業年などと打込んでネットで検索しても、確認できることは少ない。とは言いながら110年余となると明治末期頃であるから、相当な老舗であることは間違いない所である。
館内を一通り歩いて気付いたのは、共用部分は現代の宿泊客にも快適なように改装されている一方、古くからの物も大切に扱っていることだ。一例をあげると部屋のロッカーに年代物の箪笥が使われている。床の間の意匠や廊下の木製欄干なども建築当時のままのようだった。主張はしないものの老舗旅館であることが伝わってくる。
2つの浴室前の廊下に橋の意匠があるのも印象的であった。以前は遊興的色彩を帯びていた旅館なのだろうか。そのような想像を抱かせる。「湯元」と銘打つだけあって一つは地下から湧く源泉が掛け流された半地下構造の浴室、もう一つは露天風呂付の浴室となっている。当日他に二組の客があったようだが到着後、寝る前そして朝も独泉状態でじっくりと温泉を味わうことができた。
出張の傍らの宿泊であったので、食事は朝食のみとしたが地元の仁多米を直火の小釜で炊くなど手の込んだものであった。これならそれなりの宿泊料であっても納得だろう。そう思わせるものは他にもあって、フロントにビールサーバーが置いてあり、夕方は飲み放題となっていた。この時期には嬉しいサービスである。食後のデザート(アイス)もセルフサービスであり、部屋の冷蔵庫には冷水の入ったボトルが入っている。小さなことではあるがこういうサービスがあったらよいと思わせる所であり、印象の向上につながるものだ。
玉造温泉は昨年春にも大型の旅館に泊った。大きな露天風呂や豪華な夕食もあり満足ではあったが、一方でそこでは味わえない歴史や風情を感じ取ることができ、また別の満足を得ることができる。今やこの温泉街にあって貴重な宿といえよう。
(2020.08.19宿泊)
旅装はこの古ダンスに
玄関付近は近代的に改装されている
一方通路などを見ると古いものを温存し大切にされているのがわかる
浴室前の廊下には橋の意匠が
源泉が掛け流される半地下の浴室
by mago_emon3000 | 2020-09-05 15:03 | 山陰の郷愁宿 | Comments(0)