郊外地で孤軍奮闘―江南市・松里旅館
江南市は名古屋から名鉄の電車で20分ほどの距離にあり、郊外地だが意外にも古い町の姿も残り、古くは養蚕・製糸工業で大いに栄えた歴史を伝えている。
この町に古い旅館があるという情報を以前より得ており、昨年岐阜県での所用を機に泊る予定を立てていたが、事情で見送りとなり、今回改めて近隣の町並探訪を兼ねて予約した次第だ。
市街中心の南北二車線の道路から少し路地に入ったところにその「松里旅館」はあった。板塀が回された中に緑が見える小ざっぱりした外観の建物で、小さいながらも中庭を囲む造りは見ごたえを感じる。
小さいながらも端正な中庭を持つ旅館の建物
客室は玄関から見て左側の棟にあり、案内された部屋は一番表に位置する最も良い部屋とのことだ。聞くと建物は80年以上前に長野県内からこの場所に移築されたとのことで驚く。それも一般の住宅であったという。旅館業は約60年前から始められたそうで、それまでは生糸商を営まれていたそうである。
食事は襖でつながっている隣の部屋に出すとのことだが、随分雰囲気が違うのはかつて応接室だったところだからだそうで、洋風の内装で屋根が高く壁とともに漆喰で塗り込められている。床面の高さが異なり、泊った部屋が一段高く上段の間のようになっているのはやはり格式高い部屋だったからだろうか。もともと住宅としては部屋が多かったのと、中庭を囲んだ造りであることで旅館に転向するに適していたとはいえ、こういったところにもともと旅館ではなく一般住居であったことが伝わる。
客層は企業関係の固定客が多いそうで、観光客はごく少なく連休などの多客期に犬山や明治村など近隣の観光地を訪れる客が少々ある程度という。
夕食は一般的な旅館のメニューとはいえ宿泊料を考えるとかなり豪勢に感じる。客層を考慮して料金を抑えているものと思うが、室料のみでこれ以上の料金設定のビジネスホテルはいくらでもある。中庭を眺めながらの食事は優雅に感じるものだった。窓を開けているため虫が入ってくるのが若干気になるが、網戸などを付けてしまっては無粋だろう。窓にはゆがみのある古いガラス窓がはめられていた。
旅館は大女将と女将(または女将と若女将?)の親子にて切り盛りされており、今は女将の息子さんも夏休みで帰ってこられているとのこと。市内には以前多くの旅館があったというが、現在はこの松里旅館のみで、またホテルも少ないためお話を聞いていると固定客を中心に割と安定しているように感じた。息子さんの代まで続けてほしいと伝えて旅館を後にした。
(2020.07.18宿泊)
廊下と中庭 泊った時は気付かなかったが一本物の長い梁が見事
泊った部屋 10畳の角部屋であった
隣の食事をした部屋はもと応接室で趣が異なっている
泊った部屋と隣部屋は襖で仕切られているだけ 床の高さが異なっているのがわかる
風呂の脱衣所の扉 その他昔の建具・意匠も随所に残されていた
by mago_emon3000 | 2020-07-24 10:53 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)