河鹿の鳴き声に包まれる山間の宿―美又温泉・みくにや旅館
島根県西部、現在は浜田市の一部となっている金城町の山間部にある美又温泉。この温泉街自体は以前訪ねたことがあり、小規模ながら昭和の温泉地を思わせるひなびた情緒を感じるところという印象だった。以前からどれかの旅館に泊りたいと思っていたところ、「みくにや旅館」が良いとの話をネットで聞き、前週末に予約を入れておいた。
川の流れに沿い細長く伸びる温泉街、その街路を挟んで「みくにや旅館」は川側に本館、反対側にRC造りの新館があり、私は本館の部屋に案内された。それは願ってもないことなのだが、新館も昭和中期頃のビル旅館らしい佇まいなので、そちらも見させてほしいというと、客室としては当分使っていないと断られた。掃除等もされていないのかもしれないし客に見せるべきではないと思われているようなので、それ以上要求はしなかった。
温泉街の中では大きな旅館で、新館を含めると収容力はかなりあるものと思われるが、当日の客は私一人であった。ご主人らしき人影も新館に見えたが、当日は女将さんのみで応対されていた。
明治期創業の老舗旅館ということだが、本館はおそらく昭和になって建て替えられ、さらにその後一度リニューアルされている様子であった。よって外観・内装ともに老舗らしい風格はあまり感じられない。しかし木製の階段、部屋の入口に貼られた部屋名、廊下や部屋のしつらえ、それらが一体となって昭和の温泉旅館らしい香りを放っている。
本館のみを手早く回って全体像を掴み、早速入浴。本日の客は私一人であったので、終始いわゆる独泉状態であった。日が長い時期なのでまだ外は昼のように明るく、川からは河鹿の鳴き声が聞こえる。何とも贅沢なひとときだ。湯はアルカリ性が高く、滑らかで非常に肌触りがよく、美人の湯と云われるのもわかる。

意外といっては失礼だが、良かったのが夕食だった。古い旅館でありながら正直それなり以上の宿泊料だと思っていたものだが、料理が出てきて納得だった。大きなオコゼのから揚げをはじめ、浜田産の新鮮な刺身、和牛肉と新鮮な野菜の焼物などである。ただ、最近旅館の食事が多いと思うことが多くなった。年齢のこともあるが、ビールと地酒を頼み、普段は夜口にしない米飯もせっかく出てきたのに申し訳ないとの思いで食べるので、そうなるのだろう。
むろん夜寝る前と翌早朝も温泉に入り、湯にふやけた一泊ともなった。それにしても河鹿は夜遅くなっても鳴くものとは知らなかった。寝付けないほどやかましいわけではないし、これもこの宿での思い出の一つとなった。
(2020.05.30宿泊)


本館玄関先の様子
泊った部屋の様子 他にもう少しグレードが高く広い部屋もある(下)
by mago_emon3000 | 2020-06-27 14:50 | 山陰の郷愁宿 | Comments(0)