自噴泉を持つ老舗旅館―三朝温泉・桶屋旅館
三朝温泉は山陰を代表する温泉場の一つで、殊にその放射能を含む泉質は高い効能があるとされ観光客のみならず療養を目的とする客も少なくない。
業務の関係で何度か宿泊したことがあるが、出張の身であるから大型旅館のビジネスプランを利用してのもので、余り風情を感じることはできなかった。
出張の折にいくつか目ぼしい旅館はマークしていたので、今回そのうちの「桶屋旅館」を選び予約した。大正2年創業の老舗で、総客室数8部屋の小さな宿である。
客室棟は最近改装されたらしく古さは感じないものの、玄関回りと通りに面する棟は古い意匠があちこちに残っており、古い旅館であることを伝えている。ここを改装しなかったことは称賛に値することと思う。宿泊客には快適さを提供する一方で、老舗旅館としての矜持を示しているようであった。
この旅館で触れないわけにはいかないのが浴場である。源泉が浴槽から直接湧出しており、新鮮そのものの湯を味わうことができる。脱衣場から浴室に入ると半地下のような構造となっているのも特徴的で、コンクリート張りの床も簡素ながら趣がある。聞くところによると床も温泉の温気でオンドルのように温められているとのことで、脇にはタオルなどが干してあるのもうなずける。
適温ながらしばらく浸かっていると盛んに汗が出て、その都度浴槽のふちに腰掛けたり周囲を歩き回ったりした。何しろ貸切りなので全く気兼ねすることはない。日帰り客を受け付けない姿勢なのも有り難い。当日はもう一組客があるだけであった。
浴室は他に1箇所あり、時間による男女入れ替え制であった。朝は他方に入ったが、狭いながらも木製の年季の入った浴槽で、底から静かに源泉が投入されていた。入っているうちに段々と外が夜明けを迎え、なんとも贅沢な気分であった。
女将さんはあっさりした方でこちらから問うたことについては親切に答えてくれるが、客の個人的なことを詮索するようなこともなく、居心地よかった。料理も一流とはいえないまでも良心的な宿泊料のわりに十分満足できるものであった。
(2020.04.04宿泊)
通りから見る桶屋旅館の外観
半地下のようなところにある浴槽の底から源泉が自噴している
通りに面する棟の内部は古い旅館であることを証明していた
もう一つの小ぢんまりした浴槽も趣があった
by mago_emon3000 | 2020-04-25 20:44 | 山陰の郷愁宿 | Comments(0)