半身で辿る細い路地奥に佇む共同湯―東郷温泉・寿湯
鳥取県中部の東郷温泉は東郷湖の南畔に位置し、江戸時代の山陰道沿道であり古い町並も残っている。
そうした一角にこの寿湯がある。共同浴場、言い換えれば温泉銭湯なのだが、その入り口の狭さゆえに話題性をもって伝えられ、または発信されることがあり、私もそんな情報を得て興味を抱いた次第である。
普通に温泉を検索するだけでは辿り着ける情報ではなく、鄙びた共同湯といった方面に関心のある者のみが得られるところといえるだろう。また、そうであってほしいものだ。
肝心のその温泉入口は山陰本線の松崎駅から至近とはいえ、家並の隙間といったところを半身になって進まなくてはならない。通路と云うにも狭すぎる。そのような通路を20mばかりも進むと、その共同浴場が現れる。
反対側からはそのような極狭小の路地などではなく、難なく入口に到達することができるのだが、やはり駅側からアクセスできる方が表入口なのだろう。
浴場というより小屋というべき外観で、すり切れたような男湯女湯との表示と、閉じたガラス戸の向うに温泉マークのある暖簾が見えるだけで、寿湯との看板ひとつない。いかにも地味な浴場である。
内部は狭い脱衣場に様々な昭和の匂いが感じられる。浴場は簡素なタイル貼りの浴槽に豪快に源泉が掛け流されており、塩味のするやや濃厚さを感じる湯であった。
熱くて入れないほどの日もあるとのことだが、当日は我慢すれば肩まで十分漬かれる湯温であった。
私が訪ねている間他の客は一人も見かけず、また入口横の木棚にもそれほど多くの常連さんセットが並んでいるわけではない。地元のごく限られた人がぼちぼちと訪ね、しかも多くは顔見知りで世間話を行う場所として成り立っているのかもしれない。
利用客の減少で閉鎖してしまうのも困るが、ネットなどでひっそりと知った者だけが訪ねる程度で留まるべきものと思った。俗化してほしくないものとの思いを抱きながら後にした。
(2020.04.04訪問)
タイルの浴槽に静かにしかし力強く掛け流されていた
by mago_emon3000 | 2020-04-22 22:15 | 山陰の浴場 | Comments(0)