
旅館正面(玄関棟)
「加賀温泉郷」という呼称は加賀市に属する山中・山代・片山津温泉、小松市の粟津温泉を指しており、いずれも大型の温泉地で多くの宿泊客を迎え入れている。
粟津温泉には北陸最古の温泉旅館「法師」があることは随分前から情報を得ており、実際宿泊した人のレポートを見て、イメージを膨らませ何時か泊ってみたいと目論んでいたところ、この程実現の運びとなった。北陸地域の探訪はしばらく時間が空いていたこともあって、機が熟した感が兆していた。
粟津駅から北陸鉄道のバスで15分ほど、温泉街の中心に到着する。付近にはビル型の温泉旅館も見られ、歓楽的要素はなくとも温泉地らしい華やかさが感じられる。そして飲食店などの並ぶ通りを抜けると、突当りに緑に囲まれたひときわ厳かな構えが見えてきた。「法師」の玄関棟である。
粟津温泉の開湯は1300年前もの昔といわれ、法師とはここに初めて湯屋を建てた人の名「雅亮法師」に由来し、以後代々法師を名乗り現在は47代目にも及んでいる。老舗の中でも極めつけの歴史の古い旅館である。
館内に入ると、一見よくあるやや高級な大型旅館のロビーのように感じるが、この玄関部分の棟は築100年以上の歴史を誇り、建材もほぼそのままという。確かに玄関をくぐってすぐの所の天井を見上げると武骨で頑丈な梁組が見られた。中庭に面しては一段高くなった座敷があり、申し込めば宿到着後ここで茶の接待をくけることが出来るのだという。座敷内を見ることは可能というので上らせてもらったが、立派な床の間や欄間のある特別な空間といった風情だった。
私が案内されたのは「秋の館」と呼ばれる8階建ての5階の十畳間だった。中庭に沿った廊下に沿い向かう中庭には延命閣と呼ばれる離れがあり、玄関棟とともに登録有形文化財となっている。それにしても、秋の館なる宿泊棟にたどり着くまで相当な距離がある。庭が広大でその周囲をぐるりと囲むように複数の宿泊棟と廊下が巡っているからだ。部屋から見おろすと、まるで森の中に建屋が浮んでいるようにも見える。新し目の部屋だが、清潔で窓も大きく取られ好感が持てるものであった。
少し休憩しやはりまず温泉をと部屋を出たが、この浴場もまた延々と廊下を進んだ先にあり、4・5人の先客があったが広大な浴室のためゆっくりと利用できた。立派な植込みの中に露天もある。湯量が多いため循環なのは仕方ないが、硫酸塩泉という泉質で欠航を良くし老廃物を排出する効果や、神経痛、皮膚病などに効能がある。湯は無味無臭で、露天の石に若干析出物が付着している程度である。温泉らしさはやや薄いものの長湯や繰り返し湯には向いている。
1泊朝食のプランであるため夜は歩いて数分の所にある鮨屋に入った。今朝採れたという鯵の刺身、ハタハタの揚物など日本海らしい海産物や地酒を味わうことが出来満足だった。
朝食会場は下の階の個室に案内されている。部屋に入ると中央に壁があって左右に個室が並ぶ造りで、もう片方では別の客が食事する形になっていた。客室にしては変った造りなので当初から食事会場用に設計されたものと思われた。品数多い献立は傍らに図解が添えられており、ユニークかつもちろん美味なものばかりだった。
配膳してくれたのは外国人女性スタッフであった。フロント係や部屋案内も外国人従業員によるもので、ここにも人手不足の影響が来ているように思えた。
食事後、中庭を一通り散策。旅館のサイトによると「蓬莱思想」に根差したものという。残念ながらすぐ理解できないので少し調べると中国由来で、仙人や不老不死の象徴とされ、その影響を受けた日本庭園では池泉庭園という池や築山、島を配置したものが多いとのこと。確かに立派な鯉の泳ぐ池、小高い丘のようなものが築かれており、木々も風格ある老木が多く、最近になって造園されたものではないことは確かだ。重量感のある石灯籠にも眼が留った。
1000年を超える超老舗とはいえ、大型旅館の部類に入る当館は全て伝統的な建物で構成するという訳にはいかず、歴史を強く感じることのできるのは基本的に玄関付近だけなのだが、そのインパクトはかなり強い。また廊下の所々に中庭を望むことのできる休憩所が設けられており、庭と反対側の面にも小さな坪庭が設えられているなど、老舗らしい細やかな工夫・配慮がなされていた。大浴場入口付近から見える能舞台も厳かだった。
(2025.10.18宿泊)

高級感漂うロビー



中庭側には趣ある座敷が

泊った「秋の館」の部屋

座椅子横には脇息が備えらえていた

部屋から見ると中庭を廊下が巡っているのがわかる


浴場入口と付近から眺める能舞台

このような廊下が館内を一周している

廊下の途中から見る坪庭

朝食

朝食の図解



池や築山、巨大な石灯籠などのある立派な中庭


# by mago_emon3000 | 2025-10-26 13:31 | 東海・北陸の郷愁宿 | Comments(0)























































